あとがき

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「神々の黄昏」をお読みいただき、誠にありがとうございます。また、「プロローグ:空中楼閣の聖騎士」を読了いただきまして、ありがとうございました。
 大長編SFファンタジー「神々の黄昏」はいかがでしたでしょうか。ぜひお読みになったご感想やご意見をお送りください。だらしのない管理人ですが、それだけで更新と執筆の励みになります。



 さて、「プロローグ:空中楼閣の聖騎士」はいかがでしたか?
 この章は、本編「神々の黄昏」の本当に序章にあたるエピソードで、時代は本編の十年前にさかのぼります。当初は主人公セテの幼少期の番外編、あるいは本編とはまったく関係のない短編として披露するつもりでした。しかしいろいろ構想を練っていくうちに、早い段階でこのエピソードを露出させたほうがいいだろうということで、昔に書いたプロットを書き直したものです。
 もともとこの章は、小説として露出させることなどまったく考えておらず、あくまで「神々の黄昏」から派生したひとつのパラレルゲームコンテンツにするつもりで構想を練ったものでした。
 当時はまだパソコンを購入して間もないドシロートでしたが、はじめて自分で買ったMacintoshにめちゃめちゃハマり、当時はまだMacintoshに標準で装備されていたHyperCardと呼ばれる簡易オーサリングソフトにどっぷりつかっていたころです。このころ、オンラインソフトの中にはこのHyperCardで作られた秀逸なロールプレイングゲームが数多く存在していました。それらをプレイしながら「自分でもこういったゲームが作れるようになったらいいな」などと思い始め、そう思うのが早いかHyperTalkと呼ばれるHyperCard専用のスクリプト辞典を片手に、自分でゲーム作りに挑戦し始めたのがきっかけです。
 残念ながらそのゲームは未完の大作(笑)となった状態でしたが、おおまかな話の流れ自体はいまもほとんど変わっていません。お読みになってお気づきでしょうが、若干ちょっと前のロールプレイングゲームを彷彿させるような「冒険」が下敷きになっているのも、もともと「空中楼閣の聖騎士」自体がゲームを想定して作られた筋書きであるからです。
 それから数年が経過し、なにを思ったかこれをきちんと「小説」という形に書き直し、このサイトを立ち上げて発表することになるとは、その当時は夢にも思わなかったことでした。

 「空中楼閣の聖騎士」の主人公は、実はセテではありません。このあとに続く本編では主人公としてずっと活躍する予定のセテではありますが、その彼が憧れている聖騎士の、しかも最高峰に位置する伝説の聖騎士レオンハルトにクローズアップするために作ったものなので、実質的にはレオンハルトが主人公であるといっても過言ではないかも知れません。
 まだ本編に登場すらしていないレオンハルトをどうやって露出させ、いかにかの人物がすごいのかを読者のみなさんとセテにどうやって印象づけようかを考えた結果、多少いやらしい考えではありますがここでどうしてもレオンハルトを前面に押し出す必要がありました。主人公が目標としている人物を先に提示しておくことで、のちのちに続く話への伏線や見せ場を作っておこうと考えた結果こうなったわけです。
 セテはこの物語の冒険を経て、確かに聖騎士を目指して勉学に励むようになりますから、「強くなりたい」と願う少年の原動力をレオンハルトの存在においたのは正解だったのではと思います。これをお読みになった人が「ああ、レオンハルトって本当にすごい人だったんだな」と思ってくれればこれ幸いといったところですね。
 ですから、この章での少年セテのキャラはさほど際だったものではありませんし、読み返してみれば本編の世界観や時代背景などもここで書ききれないで消化不良に終わっています。この点については反省しているところであります。いつかまた大々的な改稿をしたくなるときがくるかもしれませんが、これはこれで私の思い入れのある作品のひとつではあるので、このままにしておこうかなとも思います。

 余談ですが。
 作者としては主人公セテを自分の分身のように大切に思っているのですが、さらにもっと大切にしたいキャラクターが聖騎士レオンハルトだったりします。自キャラ萌えもいい加減にしろと自分を問い詰めたい気分ではありますが(笑)、成長していくセテを描いていくのに、それとは対照的に完璧な(つまり成長しきった?)人物が必要でした。さらに自分の好み(パツキンロンゲとか?)も手伝ってできた完璧な剣士がレオンハルトとなったわけです。
 レオンハルトの設定自体は、この物語の大まかな流ができあがっていく中でも比較的後期、本当にここ最近できたものです。セテが世俗にまみれながら(笑)成長していくのに反して、レオンハルトはすでに成長することをやめた、世捨て人的な生活の匂いのしない人間。「おそらくもう二度と目を覚ますことのない恋人を見守る、墓守のような世捨て人生活を送る最強の剣士」みたいなシチュエーションができあがったのも、そんな私の煩悩のなせる技だったのかも知れません。
 またレオンハルトという人物像を考えていたとき、ちょうど「アーサー王」系にハマっていたため、レオンハルトの持っている剣の名前がアーサーが持っていたのと同じ「エクスカリバー」であるというのも感慨深いところ(笑)。個人的な趣味でもあったのですが、セテを除く登場人物たちが持っている剣の名前に伝説に登場する剣の名前がついているのは、ネタバレに相当する小さな理由がそれなりにあったりします。
 また、レオンハルトの生き方も若干アーサーのそれに似ている部分が多々あります。どのへんが似てるの?と突っ込まれても即答できるものではないのですが、平和を望んでいるのに最強の剣士という立場上、常に出撃しなければいけないジレンマとか、それなりに考えた結果が裏目に出てしまったり、人を信じすぎて痛い目にあったりと、ふんだりけったりな人生がそうだと言い切れなくもないかなと。
 セテもサーシェスもそのほかの登場人物も、それなりに悲劇を経験するわけですが、個人的にはこの物語でいちばんの悲劇の人はレオンハルトと、後に登場しますがそれに関わってきた妹のガートルードや、彼の主君であった銀嶺王ダフニスたちではないかと思います。その辺の悲劇ぶりは、まだまだ本編でも明かせそうにないのですがね。(^ ^;;

 この物語のポイントは「ふつうの少年が伝承に触れた」というところでしょうか。もちろんセテがまったくのふつうの少年では、この物語の主人公を務めることはできないのですが、誰でも幼い頃に経験する小さな冒険の果てに、自分の想像もつかないような伝説の一部に直に触れることで運命が少しずつ変わっていく、そのほんの始まりをこの物語で語りかたかったんです。
 私もよく小さい頃は自宅の近くの工事現場やら廃屋などを探検して遊んでいましたが、そこでなにか「センスオブワンダー」なことが起きるかも知れないといつもワクワクしていたものです。そういった気持ちで読んでいただき、子どものころの「センスオブワンダー」への限りない憧れみたいなものを思い出していただければ幸いです。

 また、この章ではのちに続く本編にからむ重要なキーワードや謎を小出しにしています。二百年前に起きた惑星レベルの大戦争〈汎大陸戦争〉や世界を焼き尽くしたと言われる伝説の炎の竜〈フレイムタイラント〉、空中に浮かぶ浮遊大陸衛星とはなんだったのか、聖賢五大守護神《ファイブ・ガーディアンズ》や救世主《メシア》とはいったい何者だったのか、どうしてセテが近づいたときに救世主の瞳が開いたのか、救世主はどこへ消えたのか。これは後々のお楽しみということで、徐々に本編で明かしていこうと思います。
 それでは引き続き、この章から十年後、二十二歳に成長したセテが活躍する本編、「第一章:黒き悪夢の呪縛《のろい》」をお楽しみください。

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