第二十八話:拘束

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 夜の更けぬ、夜を知らぬ街オレリア・ルアーノが〈光都〉と呼ばれるのは、なにも神世代に入ってからのことではない。汎大陸戦争が勃発する以前も、ここにはエルメネス大陸の生活を守る貴重な電気を送出するための巨大な発電所が建造されていた。その昔、まだ神々が地上を見捨てずにこの世界におわしました時代がそうだったように、汎大陸戦争後、戦火を逃れたオレリア・ルアーノは神々を倣って電気をともし、常に昼を身近においた。背後に汎大陸戦争時代の暗くよどんだ残骸の墓の谷を控え、両脇に汎大陸戦争時の炎により隆起した崖を従えたその姿を遠方から眺めれば、光に包まれた神々しい都の姿が浮かび上がって見えるのだという。
 汎大陸戦争が終結した後、中央諸世界連合が発足した際には、この地を中央の中心地的な役割とするために、中央諸世界連合評議会や聖救世使教会をはじめとするさまざまな機関をここに置き、永世中立地とした。「光都」というのは正式な名称ではなかったのだが、二度と過去の愚かしい戦争行為を繰り返さないために、光を持って闇を打ち払う者の住む都として、〈光都〉という枕詞が採用されたのだった。
 光都の地下に建造された発電所は、昼も夜もなく電気を産みだし、遠く離れた各地へ電気を送出する。汎大陸戦争以前に比べればわずかではあったが、電気が広く送出されることで、エルメネス大陸の人々の生活はどんどん便利になっていく。各国の地下に建造された中継所を通過し、それを分電器が居住区まで電気を送り届ける工事が現在も中央によって推し進められているが、すでに工事が済んだ中央圏内の地域では、人々が真夏に貯蔵庫内の食物を腐らせることはなくなったし、工場地帯では、灯火用の油よりずっとコストはかかるけれども室内を明るく保つことで生産効率が格段にあがった。汎大陸戦争で寸断された最後のライフラインである電気は、二百年経ってようやく光都を中心に回復しつつあるのだ。
 中央諸世界連合の評議会がある建物は、汎大陸戦争の折りに無傷で残った旧世界《ロイギル》の建造物をそのまま流用している。エルメネス大陸には、神々がこの地に降り立ったときに建造されたといわれるたいへん古いものが点在しているが、評議会の建物もそれに匹敵するくらいの歴史を持っているのだという。いわく、ロイギルの時代の議事堂であったということだが、なるほど確かに堅牢であるばかりか、貴賓を受け入れるための宿泊施設までが整っている。だが、どことなく無粋であることは否めない。にも関わらず、観光名所のひとつでもあるため、三時間おきに開かれる見学会にはたくさんの人々が詰めかける。〈翡翠の大聖堂〉と呼ばれる聖救世使教会と並んで、光都に来たなら一度は見ておけと言われる建造物のひとつでもあった。
 評議会の無粋な廊下を、一般の観光客が通り過ぎていく。周りのものに夢中で後れを取ってしまった年配の男性が、あわてて前の列にいるほかの観光客に追いつこうと廊下を走るとき、ふと向かいの廊下から歩いてくる人影に目を奪われる。
 栗色の柔らかい巻き毛を結い上げた貴婦人のような出で立ちの女性だ。エメラルドグリーンの瞳ととがった耳から、偉大なる一族《イーシュ・ラミナ》の血を引き、中央でも高い地位を得ている術者のひとりであろうと、観光客の男は推測するのだが、だがその美しさといったらどうだ。貴族が身につけるような柔らかく手触りのいい上等のシルクで織ったに違いないドレス、額にはめられた青い宝玉のティアラ、そしてさらに高貴な生まれを証明するかのような品のよい、それでいて聡明な顔立ち、どれをとっても申し分ない。
 女性は男と目が合うと軽く会釈をし、通り過ぎていく。男はまたその後ろ姿に見とれてしまうのだったが、後れを取っていた夫の姿に気づいた妻がやってきて、男の腕をとって強引に歩き始める。男は名残惜しそうに美しい貴婦人の後ろ姿を見送りながら、恐妻のもとへ戻っていった。
「これはこれはヴィヴァーチェ様。お美しい」
 向かいから声を掛けられて顔を上げれば、聖救世使教会の司祭のひとりが目を丸くして立っている。女賢者ヴィヴァーチェは司祭に向かって優雅に会釈をした。
「やはりあなた様が〈光都〉に移り住んでくださってよかった。私も滅多に評議会には参りませんが、無粋なうえに華にかけますゆえ、あなた様のようにお美しい方がいらっしゃるだけで雰囲気もなごみましょう。今日はまたいちだんとお美しいお召し物で」
「ありがとう。今日は聖救世使教会祭司長殿にお会いしようかと思っておりますの。いつもの術者のローブでは気が引けると申しましたら、評議会がずいぶんと豪華な服をご用意くださったのですわ」
 ヴィヴァーチェはころころと笑った。笑うだけでも華を感じさせるような美貌であった。だが、正直言えば整いすぎて恐ろしい、どこか冷たくよどんだような印象を感じるのは、この司祭だけではないだろう。
「それはそれは。しかし、祭司長への謁見でしたら評議会のような無粋なところを通らずとも」
「ええ。もうまもなくご帰還なさる要人方を出迎えに」
「ご帰還なさる要人方? はて、それはあなた様の予知でいらっしゃる?」
 無知な司祭の言葉に、またヴィヴァーチェは笑った。
「いいえ、予知をするほどのことではありませんよ。鉄の淑女殿がもうまもなくお帰りになるとの知らせを受けたまでですわ」
 そう言ってヴィヴァーチェはまた優雅に礼をし、正面玄関へと続く階段を静かに下りていった。

〈鉄の淑女〉ラファエラ・フォリスター・イ・ワルトハイム将軍は、馬車の窓から少しだけ顔を出して中央諸世界連合の本部を見上げた。評議会と並んで無粋な灰色のその建物はそこにあったが、いつもどおりの無粋さに混じってなにかひどく心をかき乱すものが、ラファエラをさきほどから落ち着かせない。突き刺すような空気が、肌を脳をピリピリと刺激する。いらだつというのとは違うが、心がはやる。危険を察知する彼女の天性の勘がそうさせているのかもしれない。戦を前にしたときのような感覚に似ているのだ。
 戦とはよく言ったものだとラファエラはひとり含み笑いをした。馬車の向かいに腰掛ける副官のマクナマラが、不思議そうな顔をしてラファエラを見やった。
 中央評議会が自分を糾弾するであろうことは予測している。アートハルク帝国の残党の動きを事前に察知できなかったこと、直轄地であるロクラン王国が彼らの手に落ちたばかりか、アジェンタス騎士団領、ヘルディヴァ公国が攻撃され、〈要石〉が解放されたことで多くの死者を出した。さらには、『神の黙示録』の一部と思われるものを入手できたというのに、アジェンタスのガラハド提督に託したことで、むざむざアートハルクに奪われてしまった。中央が血眼になって件の伝説の書物を探しているのを知っている中央の人間でありながら、その命に背いた行為であることは弁解のしようがない。
 だが、この時期に自分を解任することはしないだろう。アートハルクとの情報戦を控えているのだ。おそらくは厳しい減俸か、副官のマクナマラが解任されるか。マクナマラは優秀な片腕のひとりだ。片腕をもぐことで、自分に圧力をかけたがっているハイ・ファミリーの敵は大勢いる。この時期の彼の解任は痛い。だがもしそうなったとしても、マクナマラには事実上自分の右腕になれる一見当たり障りなさそうなポストを与えて、いつもどおりに進めていけばいいだけの話だ。
「戦の予感、ですか」
 マクナマラが言ったので、ラファエラは再び笑った。自分の考えていることが、この副官には筒抜けらしい。
「そうですね」
 ラファエラが頷くのとほぼ同時に、ふたりを乗せた馬車は滑るように中央諸世界連合の本部の前に到着した。待ちかまえていた従者が馬車の扉を開けたので、ラファエラが先に立って降りる。彼女は数メートル先に出迎えに来ている一行を見やって、
「かなりの苦戦をしそうですよ。あの面々を見るとね」
 と、副官に肩をすくめてみせた。高官たちの渋い面構えを見て、マクナマラも納得したようだった。
 お気に入りの赤いスーツと短めのタイトスカートでさっそうと馬車を降り、出迎えた一同を臆することなく見回したラファエラは、一行の中に立つ珍しい人影を見つけて目を見張った。中央から〈光都〉内に移り住み、顧問のひとりに名を連ねるよう要請されていたのを何度となく拒否し続けてきた、未来を知る預言者の姿を見つけたからであった。しかも、いつも彼女のそばに控えていた側近の若者──ラファエラが記憶している限りでは確かエチエンヌといったか──が、今日は彼女の周りにいないことに余計に違和感を感じたのだった。
「お帰りなさいませ。ワルトハイム将軍」
 周りの者が一歩引いたところへ進み出てきた預言者は、優雅に頭を下げて鉄の淑女の戻りを歓迎する。ヴィヴァーチェが目を伏せて開き、まつげが揺れる。そのほんの一瞬、ラファエラは預言者ヴィヴァーチェの瞳の奥で揺れる、陰鬱な影を見たような気がして息を飲んだ。
「これはお珍しい。ヴィヴァーチェ殿。あなたがこんな無粋なところにいらっしゃることなどないと思っておりましたのに」
 動揺を見せまいと、ラファエラは努めて預言者にそう声をかけた。ヴィヴァーチェはしとやかに笑うと、
「アートハルクの一件は伺いました。非常事態のようですから、私もお力になれればと」
「なるほど、あなたのような賢者が力を貸してくださることほど心強いことはありません。ご協力感謝いたします」
 ラファエラは軽く頭を下げ、感謝の意を表した。そこへすかさず官僚のひとりが進み出てラファエラに耳打ちをする。
「お話し中失礼いたします。将軍、到着早々にたいへん心苦しいのですが、まもなく評議会が」
 ラファエラは一瞬だけ顔をしかめ、目の前の評議会の入り口に通じる無粋な灰色の階段を見上げた。慇懃に死刑台への道案内をするできすぎた官僚に、内心舌打ちをしながらもラファエラは頷き、腹心のマクナマラを従えて堂々と評議会の階段を踏みしめた。






「聖なる御方の御名において命ずる! 裁きの光よ、悪しき者どもを殲滅せよ!」
 力強い呪文詠唱の声に、庭を囲む柵の上にとまっていた小鳥が驚いて飛び立っていった。利き腕を前に差し出しながらさきほどの呪文を詠唱したのはセテであった。だが、その指先からは術法がほとばしることなどあるわけがなく、いったん飛び立った小鳥たちも安心したのか再び庭の柵に舞い戻ってきていた。セテは憤慨したように大きなため息をつき、がっくりと肩を落とす。
「ああ? やっぱだめか? 気合いが足りねえんじゃねえのか!?」
 柵にもたれ、横柄に腕を組みながらセテの様子を見守っていたレイザークが大きな声を出したので、また小鳥が驚いて飛び立っていった。
「無理だよ。俺がなんで聖騎士の受験資格を与えられなかったか、あんただってよーく知ってんだろ?」
 セテはレイザークを振り返り、口をへの字に曲げて抗議した。
「いや、聖属性じゃないのかもしれんな。じゃああれだ、今度は水属性最上級呪文でいってみるか」
「さっきやったって。あんたそれともわざとやってんのか」
「いろいろ試してお前の得意な属性で鍛えてやろうという俺の思いやりも通じんのか。だいたい、本人の自覚なしに術法が発動することなんざありえねえんだ。自覚なしにどの属性かわからんような呪文を詠唱するなんて危険きわまりない。下手すりゃ一生中央の監視下におかれることだってありうるんだからな」
「だから俺ははなから術法なんて使えないんだって。もういいってば。あんた幻覚でも見たんだよ」
「ふん。幻覚ね」レイザークはおもしろくなさそうに鼻を鳴らした。
「神聖語の文法が得意だっての、嘘じゃねえのか?」
 レイザークが片眉を上げて意地悪そうに言うと、セテは一瞬憤慨したような顔を見せたが、ため息をついて気持ちを紛らわせることにしたようだった。
「悪いけど、俺は中央騎士大学での成績は五指に入ってたんだよ。だけど術法ってのは神聖語の文法知ってたって使えないもんなんだろ? 教官にもさんざんそう言われた」
「まあな」
 レイザークは頭をぼりぼりかきながらセテを見やった。
「お前のオヤジさん。ダノル……な。あいつは最初から術法が使えたわけじゃない。知ってのとおりアジェンタス騎士団には術法を使える魔法剣士がひとりもいない。やつはアジェンタス騎士団に赴任中、聖騎士になるために術法を必死で覚えたそうだ。あいつにできてお前ができないってのが俺には納得いかないんだがな」
 セテの表情が曇る。聖騎士だった父の話を聞くと、いつも心が躍った。だが、レイザークにいまこの瞬間に父の名を出されたことが、妙に癪に障った。レイザークがいつでも自分の影に親友で同僚だった父を見ているであろうことが、そして自分が父と比べられていることが、いまは無性に悔しい。
 自然と表情がこわばってしまうので、セテは自分の口からレイザークに対する八つ当たりが出てこないうちに、部屋に戻ろうと背中を向けた。
「教えてほしいか」
 その背に、レイザークが声をかける。セテはこわばった表情のまま振り向いた。だが、大柄な聖騎士が何を言っているのか理解できず、返事もできそうになかった。
「剣と術法を教えてほしいか、と聞いている」
 レイザークは再び腕を組み、のしのしとセテに近づいてきた。
「お前を引き取ったのはな。正直言うと、鉄の淑女《ねえさん》の命令というのは嘘っぱちだ。俺が自発的に手元に置きたいと無理を言った」
 レイザークはセテの目の前にくると、子どもをあやすように腰を少しだけかがめてセテの目線に自分の視線を合わせた。ラファエラの要請ということで黙ってレイザークについてきたが、それが嘘であったということを知らされても、セテは不思議と腹は立たなかった。
「お前があの男の、ダノルの息子だったからというのもある。だがもうひとつ、俺はお前に期待していることがある」
 レイザークはここでいったん言葉を句切り、念を押すようにセテに向かって首をかしげてみせた。
「俺に剣と術法を教えてほしいか」
 セテは大きく目を見開いて、大柄な聖騎士の顔を呆然と見つめる。全身の血管が、素早く鼓動を刻む心臓から送られてくる血液を、これまでにないほどの早さで送り出していくのが感じられた。
 現役の聖騎士が、レオンハルトと同じパラディンの称号を持つ剣士が、自分に剣と術法を伝授してやると言っているのだ。これほどに興奮するできごとなどほかにあるわけがない。セテは口元を引き締めて大きく頷いた。
「ああ、もちろんだよ。俺に……俺に剣と術法を教えてください! お願いします!」
 セテは殊勝にもレイザークに頭を下げ、力強い声でそう言った。レイザークは満足そうに頷くと、
「ふん。お前がそんなふうに頭下げるなんざ、滅多に見られんからな。いいだろう。教えてやる。ただし、条件がある」
 レイザークは太い指をセテの目の前に持ってきて言った。セテが驚いて顔を上げる。
「お前は今日から」
「たいへんたいへん! レイザーク! セテ! あのお姫様が目を覚ましたよ!」
 勢いよく開いたドアの向こうから、ベゼルが大声でふたりを呼ぶ。レイザークはそれきりそちらに気が移ったようで、言いかけた条件とやらをすっかり忘れて部屋に戻っていく。セテはその後ろ姿を見送りながら大きなため息をつき、レイザークの後を追った。
 小走りに行く銀髪のベゼルが、客人の間の扉を開け、まずはレイザークに先に入るよう促す。それから後れてきたセテにも。ふたりが入るのを確認したあと、彼女は気を利かせて席を外すつもりだったのか外に出て扉を閉めようとするが、レイザークがベゼルにも入ってくるよう促したので、銀髪の少女はおそるおそる部屋に足を踏み入れた。
 金髪の姫君はベッドに半身を起こして、部屋に入ってきた大柄な男と金髪の青年の顔を交互に見やる。そして不安そうに、傍らにいる銀髪の少女を見やった。彼女が警戒するのも無理はなかった。
 レイザークは膝を折り、姫の前に跪いた。そしてそれを見たセテもあわてて倣い、跪く。驚く彼女を安心させるように、そして敬意を表するためにレイザークは胸に手を当てると、
「心配ご無用です、アスターシャ・レネ・ロクラン王女。聖騎士団のパラディン・レイザークにございます」
 礼儀正しい言葉遣いにセテのほうが驚いたのだったが、ベッドの上の王女はさらに驚いたようだった。
「パラディン・レイザーク殿!? ああ、何度かロクランにおいでの際にお会いしたことが……!」
 アスターシャは聖騎士の顔をすっかり忘れていたことに多少気まずい表情をしたが、レイザークが気遣い無用であることを仕草で示したので安心したようだった。
「どうぞお楽になさってください。まだ相当体力が衰弱しておられるご様子」
 レイザークはそう言って王女に横になるよう促したので、アスターシャは難儀そうにまた身体を横たえる。王女は横になって楽になった首を巡らすと、聖騎士レイザークの傍らに跪く青年と少女の姿を見つめながら、
「こちらの方々は?」
「ああ、失敬。こちらのチビは訳あって私が引き取った少女で、名をベゼル。あなたが意識を取り戻すまで世話をさせていただいた」
 チビと呼ばれたベゼルは憤慨したような顔をしてレイザークの足をこづいたが、すぐに王女に向き直って優雅におじぎをするマネをしてみせた。王女の憔悴しきった顔に少しだけ笑みが浮かんだ。
「それからこっちの青二才は」
 レイザークが自分を指してそう言ったので、セテは密かに顔をしかめてみせる。
「中央特務執行庁の人間で、身元は私が保証している。セテ・トスキ特使です」
「特使……特使ですって?」
 王女は一瞬セテを睨むように見つめた。その意味は分からなかったが、レイザークは誤解のないように付け加える。
「訳あって私が引き取っているのだが、現在はどの作戦にも従事していない。彼は現在無期休職中なのでご安心を」
「ロクラン駐在の特使ではないのね?」
 念を押すように王女はレイザークに問いただす。
「彼はアジェンタスでの作戦に参加しておりましたゆえ」
「そう。ならいいわ」
 そう言って、アスターシャは大きなため息をつき、両手で顔を覆った。
「私……どれくらい眠っていたのかしら」
「およそ二日ほど。あなたの乗っていた馬車は、モンスター騒ぎで避難勧告が出ていたのを無視して、全速でアジェンタシミルへの道を疾走していた。跳梁し始めていたモンスターに襲われ、馬車は転倒、運良く馬車の中におられたあなたは無傷だったが、ひどく消耗なさっていた。守秘義務もあったので私の元に引き取らせていただいたが、術医の透視によれば、体力の消耗と多少の擦り傷、打ち身以外、別状はないとのこと」
「そう……そうね。なんとなく覚えてる。あなた方の看病に、心から感謝いたします」
 王女は頼りなげな声でレイザークとセテ、ベゼルに感謝の気持ちを伝えた。語尾が少しだけ震えていた。
「差し支えなければお話しいただけまいか。いまロクラン王国はアートハルク帝国の残党どもの占領下にある。五年前のときと同じく、強力な術者たちも同行しており、ロクラン国内は何人も出たり入ったりできないように結界で封鎖されているはず。しかも、王族や高官たちは全員ロクラン王宮内に軟禁状態であるという報告も受け取っている。それなのに、なぜ王女のあなたひとりが逃げおおせたのか、逃げおおせたにせよ、なぜアジェンタスのこんな郊外で馬車を駆っていたのか」
 レイザークの詰問じみた口調に、アスターシャは少しおびえているようだった。それに見かねてセテがレイザークの肩を揺する。
「レイザーク、疲れてらっしゃるんだ。そんなに一気にまくしたてたって」
 レイザークが珍しくばつが悪そうな顔をした。やはり要人相手は苦手らしい。
「特使にも少しは人間らしい感情を持つ方がいらっしゃるのね」
 アスターシャはセテの顔を見ながら毒気を含んだ口調でそう言った。セテは困ったようにレイザークを仰ぎ見る。なぜこの王女が自分に──いや、おそらく特使全般だろうが──これほどの敵意を見せるのか、セテにはまったく理解できないことだった。
「だいじょうぶよ。心配ご無用。お話ししましょう」
 そう言って、アスターシャはレイザークとセテを交互に見ながらことの成り行きを話し始めることにした。
「私はロクランの地下にある、偉大なる一族《イーシュ・ラミナ》の研究室にあった門《ゲート》を伝って、外へ逃げ延びたのです」






「長官、あなたからの書簡および報告書はすべて拝読いたしました。あなたのご帰還前にすべての閣僚がこれの写しを読んでおりますので、すぐに本題に入れることでしょう。その前に私から霊子力炉の件で報告をさせていただきます」
 中央諸世界連合評議会の円卓に並んだ閣僚の中でももっとも若い、フィリップ・ハートマン中央評議会顧問補佐官がそう言い、評議会の面々をぐるりと見渡した。アジェンタスでの事件以降、彼は霊子力炉の報告書を携えて、中央の研究チームとともにラファエラより一足先にこの光都へ舞い戻っていた。若くやり手の彼は、二十四歳という年齢で補佐官の地位に上り詰めたわけだが、ラファエラはこの青年がたいそう苦手であった。ひと言で言えば、そのやり手具合が鼻につくのだ。
 霊子力炉の存在は、中央諸世界連合でも大きな発見のひとつであった。イーシュ・ラミナ、あるいはその血を濃く受け継ぐ人間の精神力をある種のエネルギーに変換して、さまざまな用途に使われていたというのは、旧世界《ロイギル》の文献にも残っていた技術のひとつである。だが、それを防衛および攻撃に用いていたのはアジェンタス騎士団領ただひとつ。汎大陸戦争以降、どこにそれらが建造されていたかは定かではないし、ほとんどが海に沈んだり破壊されたりしたために、探索も容易ではない。
「アジェンタス騎士団領には、信じられないことに地下に二基もの霊子力炉が建造されていました。アジェンタス騎士団領、故ガラハド提督からの報告書にも書いてあったとおり、一基はアジェンタス騎士団の管理下にあって常時稼働してアジェンタス全土を守護していました。そしてもうひとつ、こちらはカート・コルネリオの管理下にあり、アジェンタス騎士団領すべてを殲滅させようというもの。騎士団の管理下にあった霊子力炉には、カート・コルネリオの実妹であるハルナ・コルネリオが接続されていましたが、コルネリオ側の霊子力炉では、彼はあえて生身の人間を置かず、狂信集団の信者などを集団自殺に追い込ませ、彼らの魂を吸い上げてエネルギーを蓄積していた模様です。事件後にそれらふたつを解体したのですが、どちらも双方の攻撃によってずたずたで、ほとんどデータを取得することはできませんでした。一応、末尾にそれらの報告書を添付いたしましたので、後でじっくりお読みください」
 ハートマンの饒舌な説明を聞きながら、評議会の面々は分厚い報告書の写しを繰り、めいめい頷いたりうなったりした。
「先日首都ごと崩壊して国家消滅の憂き目にあったグレナダ公国、研究チームによる調査がいまも続けられておりますが、どうもこちらにも霊子力炉があった形跡があるとの報告を受け取りました」
「グレナダ公国に?」
 ラファエラはうめくように尋ねた。ハートマンは頷き、
「報告書の八十六ページをごらんください。これはアジェンタス騎士団領首都アジェンタシミル崩壊後のデータですが」
 ハートマンはそう言って、評議会のメンツがページをめくり終わるのを待ち、
「霊子力炉があった場所で、通常ではあり得ないおびただしい量の霊子力が計測されています。このグラフと同じような波形が、調査を続けていくとグレナダ公国のアルハーン大公公邸地下での調査でも見られたことが判明したのです。アジェンタスの事件がなければこの仮定にはたどり着けませんでしたが」
 ラファエラは小さくため息をついた。グレナダ公国の瓦解は、いまだ彼女の頭を悩ませる事件のひとつでもあった。
 グレナダ公国はアルハーン大公の体調が思わしくないため、そして大公の死後二、三年、継承問題でずっともめていた。そんな折り、長子は反乱鎮圧の際に戦死したため、残った末弟のアトラス・ド・グレナダを大公につけたいものとそうでないものとの対立は目に見えるほど激化し始めた。やがて内乱が勃発し、国土は見る間に荒廃していった。そんな中で末弟アトラスを亡き者にしようとする反乱分子は最後の賭に出る。末弟もろとも公邸を襲撃したのだ。ところが公邸は謎の大爆発を起こし、反乱軍はおろか、廷臣たちや親族も巻き込んであとかたもなく消滅したのだった。
 その謎の大爆発が、何者かによる霊子力炉の解放だとすれば納得がいく話ではあるのだが──。
 アトラス・ド・グレナダの死体はついに見つからなかった。公式には行方不明とされているが、あの爆発の中で生き延びられるわけがないのは誰にも分かっていることだ。まして、アトラスが転移のできる優秀な術者であったという報告すらないのだ。
 継承者も簒奪者も失ったグレナダ公国は、中央の庇護化に置かれる特別自治区となりはてている。中央の国家の中でも比較的若いこの国には、国民性というものが最後まで根付かなかったのだ。取り残された国民は誰も国家の再建をしようとせず、中央の管理下に置かれることを自ら望んだのだ。
「アジェンタス、そしてグレナダにあったとすれば、まだまだ中央エルメネス大陸に霊子力炉が存在する可能性は否定できません。私は中央評議会に、大陸全土をあげての霊子力炉調査を提案いたします」
 ハートマンはきっぱりとそう言い放ち、評議会議長をまっすぐに見つめた。議長はベナワンという色黒の初老の紳士であり、ラファエラと同様、ハイファミリー出身でありながら長年エルメネス大陸での内乱の際の和平交渉に従事してきた人間だった。
「なるほど、確かにそのような装置がいまだあちこちに点在しているというのは問題です。ですが、それらを調査してなんと?」
 ベナワン議長はおっとりした口調ではあるが、常に先を読んで発言する人物だった。ハートマンの提案はもっともであったが、中央の機関が霊子力炉のような巨大な軍備を手に入れることを懸念しているに違いなかった。
「勘違いしていただきたくないのは、軍備の増強であるとか、すべての軍事力の管理を中央が行うということではありません。人道的観点から調査が必要であると判断したためです」
 ハートマンの食い下がりように、ラファエラは内心感心した。このこまっしゃくれたぼうやが、人道的見地からものを言うなんて考えられなかったからだ。点数稼ぎをするためにしてはずいぶんとけなげなものだと、鉄の淑女は思った。
「アジェンタス騎士団領では、汎大陸戦争後二百年もの間、霊子力炉が常時稼働している状態でした。イーシュ・ラミナの血を引く人間が常にそこに接続され、生きた霊子力装置として常に霊子力を吸い上げられてきた。霊子力炉はその報告書のとおり、人間の魂の力を消費します。ところが、アジェンタス全土を外敵から守るためのエネルギーをひねり出すには、ひとりの人間の精神力ではまかないきれない。その代替エネルギーとして、肉体の力を変換するのです。カート・コルネリオの妹ハルナの下半身や両腕が消滅しているのは、精神力以上の力を発揮したときに、肉体の力を消費したため。そうして最後には、霊子力炉につながれた人間は、あとかたもなく消滅していくのです。アートハルク戦争のときに集約型術法の攻撃を退け、以来、難攻不落のアジェンタスという枕詞を抱く影に、そうした非人道的な行為によって犠牲になった人間が何十人もいることは明白です」
 それからハートマンはちらりとラファエラを見やり、
「ところが、アジェンタス騎士団領の時の支配者たちは、そうした事実を知りながら霊子力炉の存在を表沙汰にすることはなかった。コルネリオの事件がなければ、霊子力炉はいまでも存在し続けたでしょう。そして皮肉なことに、先日のアートハルクの残党に陥落させられることもなかった。ガラハド提督は、中央諸世界連合憲章に反する非人道的行為を行ってきたと言わざるを得ないでしょう」
 ここへきてはじめて、ラファエラはハートマンの真意を悟った。ガラハドをおとしめ、そしてその友人であった自分をも糾弾するつもりなのだということを。
「議長。ハートマン補佐官の、死者を侮辱するような発言はたいへん遺憾に思います」
 ラファエラはハートマンに対抗すべく、挙手をして力強く反駁を開始した。
「ガラハドは、最後の最後まで霊子力炉の秘密について苦悩しておりました。それは、私から提出した報告書にもあるとおりです。彼はコルネリオの事件後、辞表を提出してその任を解いてもらうことを望み、それは中央でも受理されています。確かにガラハドの代でもっと早く中央に霊子力炉のことを報告していれば、コルネリオの陰惨な事件が起こることはなかったかもしれません。ですが、死者を裁き、起きてしまった事実を掘り返して民に不信感を植え付けるのは、中央の領分ではないはずです」
 ラファエラはハートマンに鋭い視線を投げかけながらそう言った。ベナワン議長はため息をつき、
「長官。ご友人のことは確かに残念です。哀悼の意を表します。ですが、いまは死者を冒涜しているわけではなく、霊子力炉の調査のための前提として報告を聞いている、そういうふうに考えましょう。私も、ガラハド提督のような優秀な最高権力者を侮辱したくはない。ハートマン補佐官も、行き過ぎた発言には十分注意していただくように」
 ベナワンの物言いに、ラファエラは大きくため息をつき、柄にもなく友人のことで激した自分を戒めた。議長は研究チームを統べる智恵院の代表に、調査のための予算を作成するように言い渡した。それを聞いてハートマンは満足そうに席に座り直し、次に発言をするラファエラの報告書に目を通し始めた。
 ハートマンは補佐官の地位から早く脱却して、もっと発言力のある地位を欲しているのだ。もし彼がこのまま順調に点数稼ぎをしていった結果どうなるのか、ラファエラは考えたくもなかった。
「それではフォリスター・イ・ワルトハイム将軍。あなたからの報告を」
 ベナワン議長がそう促し、ラファエラが報告書を掴んで立ち上がったそのときだった。
「ハートマン補佐官、あなたのご提案はとても興味深いですわね」
 鈴の鳴るような声に、一同は議事堂の入り口を見やった。そして誰もが驚きの声をあげる。議事堂に入ってきたのは、美しき女賢者ヴィヴァーチェであった。色気のない議事堂にあって、その姿は誰の目にも女神のように輝いて見えた。
「これはお珍しい、ヴィヴァーチェ殿。ですが、いまはたいへん重要な議事の最中です。申し訳ございませんがしばらく発言はご遠慮願えれば」
 ベナワンは未来を知る巫女姫に慇懃にそう言ったのだが、ヴィヴァーチェは頷き、
「存じ上げておりますわ、ベナワン議長。ですが、さきほどのハートマン補佐官のご提案に絡みまして、私のほうからもとても重要な報告がございます」
 ヴィヴァーチェはそう言って滑るように議長に近づくと、手にしていた数部の紙束を差し出した。きちんと綴じられた報告書のようであった。ベナワンは補佐官らに命じてそれらを評議会の面々に手渡した。ラファエラはその報告書を受け取りページをめくったが、そこに書いてあることに眉をひそめる。ガラハドに託し、アートハルク軍に奪われた『神の黙示録』の一部に関する報告書だ。ついに来たかとラファエラは腹をくくる。だが、なぜこれをヴィヴァーチェが持ってきたのか。
「ワルトハイム長官。あなたはコルネリオの一件の後、特使のひとりからコルネリオが持っていたという『神の黙示録』の一部を、ガラハド提督に託された。なぜです?」
 凍り付くような視線で、ヴィヴァーチェはラファエラを見やる。
「それはいま私から報告をしようと思ってたところです。それに至る経緯はすでに議会宛の書簡と一緒に提出済みのはずです。中央の研究チームは引き上げた後のことですし、ガラハドの知人の研究家に託し分析をした後、その報告書とともに中央に持ち帰る予定でした」
 嘘も方便のつもりだった。ハートマン補佐官に手渡したくなかったというのが本音だったが、いま思えばなんとあさはかな行動であったか。
「結構。では私のほうからの報告書をごらんください」
 そう言ってヴィヴァーチェは評議会全員に資料に目を通すように促した。一同からうめき声が漏れた。
「それはガラハド提督から、その研究家とやらの人物に当てた書簡の写しですわ」
 ラファエラは得意の斜め読みで素早く資料に目を通した。そしてそこに書かれていることに愕然とする。あり得ない。あり得るわけがない。
「みなさまがごらんのように、ガラハド提督がその人物に宛てた書簡にはこう記されています。ワルトハイム将軍は中央の研究チームに、ごく個人的な感情を理由にして『神の黙示録』を引き渡すのを拒んだ。これは好都合である。これを中央よりも先に解読すれば、霊子力炉なきいまのアジェンタスも、アートハルク帝国のように再び最強の軍備を誇れる日がくるに違いない──と。これについては、ワルトハイム将軍に相談したところ、アジェンタス再建のために解読することは必至であり、個人的ではあるが全面的に協力すると言われた」
「馬鹿な! 何かの間違いだ!」
 ラファエラは激しく議事堂の机を叩き、立ち上がった。
「さらにこうも書かれています。研究費用は、中央特務執行庁から特別予算が回されることになっており、ワルトハイム将軍もそれに同意している。そしてその研究家とやらからの書簡にはこうも書かれています。アートハルクの特別使節と名乗る人物から、研究を続けるための資金を調達できることとなった。アートハルク帝国はアジェンタス騎士団領の地下に眠る『要石』を欲している。近くアートハルクがアジェンタスに進軍する予定があるとのことなので、それまでの間、なんとか時間を稼いでほしいと」
「そんな馬鹿な話! 死者の書簡などいくらでもねつ造が可能だ!」
「そうでしょうか。それでは最後の資料をごらんください」
 そこには見慣れた筆跡で書かれた書簡の写しがあった。まぎれもなく、それはラファエラ本人の筆によるガラハド宛の書簡だった。
「ガラハド提督は、アートハルク帝国の進軍を知った後、あなたに対して援軍を要請しています。それは公式なものではなく、個人的な書簡によって、です。ですがあなたは書簡によってそれを拒否しています。研究家の最後の書簡では、アートハルクがアジェンタスに進軍した後、提督は救出される手はずになっていると伝えられていましたが、しかし、提督はそれをよしとしなかったのでしょう。将軍、あなたがどうお考えだったのかは分かりませんが、公的資金を秘密裏に『神の黙示録』の研究に回したのが発覚することを恐れてか、そしてアートハルクの進軍により、すべての事実が隠蔽されることを望んでか、あなたはアジェンタスを見殺しにしたのです」
 ヴィヴァーチェはその細く長い指をラファエラに突きつけ、力強い声でそう言い放った。一同、静まりかえってラファエラの様子をうかがう。一同の視線に晒されて、ラファエラの身体がぶるぶると震え出す。
「そう、あなたがお出しになるつもりだった提督への書簡は、配送されなかったのですよ。不審に思ったあなたの副官マクナマラ准将が、評議会に提出しようと手元に置いたのです」
「……罠だ……! これは……!」
 ラファエラは絞り出すようにそう言った。こんな馬鹿なことなどあるわけがない。確かなのは、個人的な感情を理由に、中央への『神の黙示録』の提出を拒んだことだけだ。しかも、ガラハドとの書簡のやりとりなど事実無根、その書簡がやりとりされるわけなどないのだ。なぜなら自分は、アジェンタスと光都の間を行ったり来たりしていたのだから。
 では誰が、なんのために、こんなばかげた大がかりな罠をはる必要があるのだ。
「その書簡が、本物だとどう証明するおつもりです、ヴィヴァーチェ殿。それが本物であるかどうか、本格的に調査していただきたい」
「再調査は必要ですが、書簡についてはこれ以上の調査の必要はありませんよ、将軍。マクナマラ准将が秘密裏に調査をした結果がこれです」
 はめられた。ラファエラはすでに副官までもが自分を欺いていたことを知り、自分がいかなる窮地に立たされているかを実感した。
 政敵が多いことは十分認識していたが、今回は最悪の事態といえる。中心にいるのは誰だ。ヴィヴァーチェがこれほどまでに中央評議会に近づいてきた理由はなんだ。賢者ごときが、ひとりで自分を陥れるようなことをするなど考えられない。では彼女の後ろに、いったい何者がいるのか。
「残念ですが長官」
 ベナワン議長は声のトーンを落としてそう言った。
「これが本当ならあなたのしたことは重罪です。ですが、事実関係を評議会で再調査する必要があります。その間、遺憾ながらあなたの身柄を拘束せざるを得ない」
 議長の合図で評議会の扉が開き、警備兵がドカドカと走ってきた。あっという間にラファエラは取り囲まれたが、彼女は動じることなく静かに立ち上がり、警備兵に従うことにした。
 ──そうだ。私の身柄を拘束することがやつらの目的なのだ。
 ラファエラは唇をかみしめ、警備兵とともに議事堂を後にした。自分のいない間に、そいつは何をしでかすつもりなのか。ラファエラはまだ、光都に何が起きているのか、自分の経験の範囲でしか予測することはできなかった。

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