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「神々の黄昏」をお読みいただき、誠にありがとうございます。また、「番外編:聖騎士の暁〜LOST DECADES〜」を読了いただきまして、ありがとうございました。
大長編SFファンタジー「神々の黄昏」はいかがでしたでしょうか。ぜひお読みになったご感想やご意見をお送りください。だらしのない管理人ですが、それだけで更新と執筆の励みになります。
さて、「番外編:聖騎士の暁〜LOST DECADES〜」はいかがでしたか?
この番外編は、穂高あきらさん主催の「番外編競作企画」(http://www.novelism.com/annex/)第一弾「その花の名前は」(http://www.novelism.com/annex/first/)に参加登録をした作品です。締め切り前のたった二日間、そのうちの最後の一日はほぼ徹夜をしたものの、すさまじい勢いの突貫工事で書き下ろしたものです。いかに私がいつも行き当たりばったりな書き方をしているかというのが伺える作品のひとつでもあります。
もともとこの作品のタイトルは「LOST DECADES」という英字だけのものでした。DECADEとは十年を表す言葉で、これを複数形のDECADESとすることで数十年を表します。すなわち、「失われた数十年」という意味です。
「番外編競作」のお題が「その花の名前は」に決定した際、まず私が思ったのは「うげ、うちのキャラと作風に花なんて全然縁がねーっちゅーの」ということでした。ですが、お題に惑わされていい機会を失うのはたいへん惜しいと思ったので、ない頭を必死で絞ったのを覚えています。
以前から作者のひいき目キャラのひとりであるレオンハルトを、それも回想ではなく生きている姿を書いてみたいと思っていたのですが、本編では死んだことになっている彼を書くに当たってはどうしても本編より過去の話にならざるを得ません。そこで、レオンハルトが現役の聖騎士をやっていた頃の話に仕立ててみようと思い立ちました。すなわち、セテが生まれるざっと二十年近く前、まだレイザークも中央騎士大学の学生だった頃の、本編で語られることのない数十年前の話を舞台にしたというわけです。
ですが、後に英字のタイトルとしても語感があまりよくなく、ぱっと見てどんな話か想像もできないのは番外編としてはあまりよろしくないだろうということで、「聖騎士の暁」というタイトルを主題にし、LOST DECADESを副題としました。
暁というからには、夜明け前。すなわち聖騎士になる前を意味したつもりですが、この話のもうひとりの主役、ダノルが聖騎士になった日からさかのぼって彼があこがれの聖騎士になる以前の、ちょっとしたエピソードをこのタイトルで表現してみたつもりでした。さて、本編には登場しない(予定の)キャラクターが動き回るというのは、ちょっと新鮮だったのではないでしょうか。
ここから先は多少ネタバレを含みますので、できれば本編第二章までをお読みいただくことをおすすめいたしますが……。
レオンハルトにあこがれて聖騎士を目指す若者は、本編ではたいへん多く、ご多分に漏れずダノルもそのひとりです。セテと同様に勝ち気で意地っ張り、空威張りだけは一丁前ですが、セテよりは少しは分別があって頭の血の巡りがいいというのが彼の特徴。レオンハルトにあこがれてはいるけれども、盲信するような感じでもなく、ある意味現役の聖騎士とのやりとりを楽しんでいる不敵さも持ち合わせています。思ったことをズケズケ言ってしまう面も持ち合わせているようですが、そんなあたりが少しレオンハルトに「おや?」と思わせたのかもしれません。
この話で浮き彫りにしたかったのは、聖騎士であるレオンハルトが決して聖人君子ではないということ、任務のため、自分の軍隊を守るためには平気で残酷な手段を使って人を殺せる、冷徹な職業軍人であるということです。それに対するダノルは、剣で手柄をあげたいと思ってはいるものの、人を殺すということにまだまったく割り切れていない青二才であります。どちらがいいか、というわけではなく、どちらも人として重要なことだと私は思います。ただ、社会に出て働くということは、常にこうしたジレンマに陥ることであり、それでもどこかで割り切らなければ社会人として使い物にならないのだとも私は思います。ダノルは割り切れたようなことを作中最後に言いますが、自分の力でどうにもならないことには、聖騎士になってからもずっと憤っていたことでしょう。そしてレオンハルトも、割り切ることの苦しさを捨てたわけではないでしょう。
少し残念なのは、ダノルと花売りの少女との心のふれあいを、もう少し時間をかけて書ければよかったのに、というところです。読んだことのない人が、本編を読む前に少しだけ雰囲気を味見できる番外競作企画とはいえども、あまりに長い番外編では飽きられてしまうこともあるでしょうし、とはいえこの時点でも相当な文字数となっていたので、やむなく途中をすっとばしすっとばし書き連ねてしまいました。
さらに、ダノルとレオンハルトとのやりとりもしかり。レオンハルトが最初ダノルをうざったく思っていたころから打ち解けるまで、また、作中の作戦でダノルとレオンハルトが激しく言い争いをするあたり、もっと深く掘り下げられればよかったのに、と思います。要するに、反発したり打ち解けたり、ふたりのじゃれあいが書きたかった、というヨコシマな思いもあったり(笑)。もし改稿する機会があったら、同じく番外編のつもりで書いた「挿話:遙かなる憧憬」と同じくらいのボリュームにできるくらいには手を入れてみたいと思います。
さて、見事レオンハルトと同じ聖騎士になることができたダノルは、このあとレオンハルトとタッグを組み、さまざまな任務に従事することとなります。またその少し後には、聖騎士になったばかりのレイザークも交えた三人で、難易度の高い任務をこなしていくこととなります。作中二十年後くらいにはセテが生まれ、本編につながっていくわけですが、いつかまた番外編のような形で、レオンハルトとダノル、レイザークの三人組が任務をこなしているエピソードが書ければいいなぁと思います。本編では回想でしか登場しなさそうなのでね、作者の息抜きに(笑)。そして本編では、どうしてダノルが死んだのか三章にて明らかにされると思いますが、その展開を考えると少し悲しくなる樋渡であります。
それでは、引き続き本編をお楽しみください。