あとがき

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「神々の黄昏」をお読みいただき、誠にありがとうございます。また、「第二章:黄昏の戦士」を読了いただきまして、ありがとうございました。
 大長編SFファンタジー「神々の黄昏」はいかがでしたでしょうか。ぜひお読みになったご感想やご意見をお送りください。だらしのない管理人ですが、それだけで更新と執筆の励みになります。



 さて、「第二章:黄昏の戦士」はいかがでしたか? もともとあまり慎重に、細部にわたってプロットを練り込み続けるタイプの人間ではなく、比較的大筋が決まったらいきなり書き出してしまうことの多い、たいへんずぼらな作者ですので、あちこち不整合を引き起こしているのが目立つというのがこの章の特徴だったのではないかと思います。うう……プロットはたいへん重要なのだとしみじみ思いました。

 この章のテーマは、人生における第二の転換期といったところでしょうか。前章の「黒き悪夢の呪縛《のろい》」では、セテもサーシェスも、それぞれの人生が大幅に変わっていく転機が訪れていたのですが、この章ではまた別の形で運命に翻弄され、再び違う転換期を迎えるといったストーリーの運びになっています。
 オンライン小説のいいところは、プロではない物書きの人間が、自分の感じたことや考えていること、思想や理想などを、良識の範囲内で自由に作中に盛り込めることだと私は思います。常に私はそのときの自分の人生で起きたことを、登場人物に代弁させてしまうという悪い癖を持っているのですが、二章でもそれがずいぶん突出して表現されてしまっているなと思う反面、いまの自分にしか書けないことがうまい具合にあふれているのではと思っています。
 例えば、一章での心の傷を引きずったままのセテは、自分はいったいなんのためにここにいるんだろう、自分はなんと無力なんだろうと、何度も自問自答し、あのときああしていれば、こうしていればあるいはどうにかなったかもしれない。そんなことを延々と繰り返して苦しんでいます。セテのようなどん底に陥ったことは私はまだありませんが、執筆中に転職し、その前後に仕事に対する自分の甘さなどを感じた私は、彼のように毎日自問自答してモンモンとしていたことがあります。二章でのセテがかなり湿っぽいのは、そんな毎日を送っていた自分を彼の作中での立ち回りに投影させていたからかもしれません。実際、案外湿っぽい私は、けっこうダメージをかなり長いこと引きずるタチでございまして、過去の自分の失敗などが何度かフラッシュバックしてしまって前に進めなくなることもあるもんです。
 なかなか立ち直れない、立ち直るきっかけがつかめない、そんななかで、人生の師匠であったスナイプスの次にようやくレイザークが登場しますが、セテはまだレイザークとうまくやっていけるほどの器用さは備えていないようです。転職後、私は三度上司が替わり、仕事の内容も二回ほど変わっています。上司や仕事の内容が変わったときの不安と期待、そんなものをセテとレイザークの関係になぞらえているような気もします。
 反面、序盤で戦う決意をしたサーシェスは、私のリアルな生活でのもっとも攻撃的な面が最大限に表現されていたのではないかと思います。女性に対するいまだ根深い差別意識に対して、血みどろのビジネスの現場でどこまで女性が主導権を握れるか、サーシェスは私の代わりにずいぶんと気持ちよく立ち回ってくれているような気がします。

 このほかにも、その他の登場人物の言動やシチュエーションにおいて、時事的な風刺などをいろいろ盛り込んだのがこの章です。また、特に第二章はセテとサーシェスといった主要人物のほかに、名前を覚えきれないほどのたくさんの関連人物がたくさん登場しますが、主役クラスの二人よりもその他の登場人物に対して、「気に入っています」という感想をいただけたのはたいへんありがたいことです。二章ではセテとサーシェスはどちらかというとずっと受け身で、周りが勝手に動いているのに巻き込まれ、振り回されているといった感じですから、彼らの周りでいろいろな思惑を持って行動している登場人物に注目していただけたのは本当にうれしいことですね。

 男性女性問わず、ダントツ人気なのがピアージュでした。一章の終わりごろから「性格が別人じゃん!」ってなくらいにかわいらしくなってしまったピアージュなのですが、私もたいへん気に入っているキャラクターのひとりです。ときにアスターシャと性格がかぶってしまうことがあるので今後は要注意なのですが、野良猫がやっとなついて全身で甘えてくれた、そんな危うげな子どもっぽさと愛しさを彼女とセテの関係に投影できていればと思っていました。彼女と四大元素の名を掲げる一族との関わりについては、次の章のもう少し先のほうで解き明かしていく予定ですし、作中ででてきた「生き別れになった妹」という存在も、後のストーリーであっといわせるような展開に持って行ければと思っています。
 主要人物のひとりのくせに二章ではほとんど出番がなく、出てきたと思ったらへたれっぷりを発揮している黒髪の文書館長フライス殿に関しては、気に入ってくださっている方々にはたいへん申し訳ないです(笑)。予定ではもっと早くサーシェスと合流しているはずだったのですが、他のストーリーの進みが遅く、後手に回ってしまったのが失敗でした。本当はフライスの名前の由来とか(もちろん作中での造語ではあるのですが)、彼がロクランを飛び出していったあとの考え方の変遷なんてものをもう少し掘り下げておくべきだったのでしょうが……。
 レイザークに関してももう少し内面的な部分まで掘り下げていきたかったなと思っています。特に、セテの親父とレオンハルトと三人で任務をこなしてきたという経歴から、十七年前のアジェンタスでの事件とやらの真相を知っているのは彼ひとりのはずなのですが……。レイザークがレオンハルトに対してはあまりいい感情を抱いていないというのと、セテの親父に対する感情とその狭間にいるセテに複雑な思いを抱いているというのが、あまりきちんと書けなかったのは残念です。死んだ同僚(先輩)の息子と対面してレイザークもずいぶん動揺したはずなのですが、セテのへたれっぷりに焦点を当ててしまったために霞んでしまったようです。とりあえずセテの親父が誰だったのかそこまで書けたので、もう少し十七年前の事件については引っ張らせていただく予定です。また、セテの人生の師匠としてのこれからのレイザークの活躍にもご期待いただきたいところです。

 ストーリーとしては、この章のタイトルでもあり、いよいよ日の目を見ることになった〈黄昏の戦士〉とともに、やっとメインストリームの戦いにスポットライトを当てた形になってまいりました。中央とアートハルク、そしてその影に、中央と中央にいながらにして中央に疑念を抱いている者たちの戦いが存在します。ロクランを制圧したことで第二のアートハルク戦争を彷彿させる動きになってきましたが、戦争の予感とそれに巻き込まれ、振り回される人々の、建前と本音といった具合に掘り下げて書き続けられればいいなと思っています。
 ここ数年、きな臭い話題がが絶えない世界情勢ではありますが、敵対する側だけの都合で敵対国を絶対的な悪であると決めつけることはたいへん危険な考え方だと私は思います。どちらの側にも正当な理由、(彼らの思うところの)正義があります。人の数だけ真実があるのと同じように、さまざまな角度で事象を見守ることは人生においても重要なこと。勧善懲悪なストーリーはたいへん小気味よいものではありますが、そうではなく、どちらの側がどのような思惑を持ってこうした行動に出ているのか、どちらも双方の立場に立てば正しいのだということを、この物語を通じて書いて行ければいいなと思います。もちろん、次章では十年前のアートハルク戦争の真相を少しずつ解明していく予定です。
 大風呂敷を広げすぎてしまったストーリー上の謎についても、そのほとんどを次章にて解明させていく予定です。まずはアートハルク戦争と前皇帝ダフニス、レオンハルト、ガートルードの三人の関係、次に十七年前のアジェンタスの事件でどうしてセテの父親が戦死したのか、サーシェスは何者なのか、ですね。そのおおもととなる二百年前の汎大陸戦争については最終章まで引っ張る予定なのですが、これからどんどん登場する旧世界《ロイギル》の遺産や謎、すなわちカタカナ用語連発の小難しいハイテク機器やらについても、ご注目いただきたいところです。手に負えないほどの謎に巻き込まれてしまったセテとサーシェスが今後どのように立ち回るのか、作者としても武者震いがきます(笑)。

 余談ですが、作者としてはどうしてもひいき目待遇をしてしまうレオンハルトを、またしても本編で書けなかった腹いせに、番外編「 聖騎士の暁〜LOST DECADES〜 」にて生きている(笑)レオンハルトの姿を少しだけ書いています。ちょっとしたネタバレも含んでおりますが、もしお時間がありましたらそちらの番外編に挑戦していただけると幸いです。

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