あとがき

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「神々の黄昏」をお読みいただき、誠にありがとうございます。また、「第一章:黒き悪夢の呪縛《のろい》」を読了いただきまして、ありがとうございました。
 大長編SFファンタジー「神々の黄昏」はいかがでしたでしょうか。ぜひお読みになったご感想やご意見をお送りください。だらしのない管理人ですが、それだけで更新と執筆の励みになります。



 さて、「第一章:黒き悪夢の呪縛《のろい》」はいかがでしたか?
 序章である「空中楼閣の聖騎士」とはうってかわって、たいへん長くて恐縮です。ですが、典型的なファンタジーロールプレイングゲームのような雰囲気を持たせていた序章とはまったく異なり、かなり現実的な話で、そして少しずつではありますが本来のSFらしさ(嘘つけ)を感じさせるものになっていたと思います。

 私はタイトルを考えるのがたいへん苦手で、この章にタイトルをつけるときもとても苦しみました。悩みに悩んだあげくに「黒き悪夢の呪縛《のろい》」というものをつけたのですが、ある意味この章のキモを表したものとして正解だったのではと思っています。
 この章のキモとはすなわち、ほとんどの登場人物が悪夢に苛まれているというところ。もともとは記憶のないサーシェスが、断片的に自分の過去らしきものを夢で見ているところから端を発したアイディアだったのですが、そのうち後半あたりになってくればセテも、そしてフライスも、みながみな自分の中の悪夢に苦しめられていくわけです。この悪夢は一章が終わり、次章の「黄昏の戦士」でも受け継がれていますが、果たして悪夢に終わりはあるのでしょうか。

 以前ある方に指摘されてなるほどと思ったことがあり、自分でもそのように分けていることがあります。一章は、セテがロクランにいる間を「学生編」、アジェンタスに帰ってからを「就職編」と分けられます。思うに、この一章は私の社会人生活を端的に表したものだなと。
 学生時代、もう自分にかなうヤツはいないだろうとふんぞりかえっていた井の中の蛙=セテが、就職してから自分の思い上がりを知り、社会人として必要なことをたたき込まれ、また自分で覚えていき、ある程度使えるヤツに成長していくところを描いたつもりでしたが、いかがでしょうか。「神々の黄昏」自体が主人公セテの成長物語をベースにしたものですから、この狙いは成功したのではと自分では思っています。
 学生時代にしかできないこともたくさんありますが、社会人になってから見えてくるものはとても多いものです。自分で責任を取ることを覚えていくうちに、学生のときには見えなかった、社会人にしか分からない部分が分かってきます。それは、今度の人生においてとても重要なものだと私は思います。成長するのは社会人になってからのほうが大きいのではとも思います。もしサラリーマンファンタジーなんてジャンルがあったら、「神々の黄昏」をそこに分類したいですね。
 社会人としてのセテの成長具合はとてもめざましいものだとは思いますが、人間的に成長していくのはたいへん遅いので、気長に見守っていただければと思います。

 セテがアジェンタス騎士団領に帰ってから、かなり自分の精神状態に左右されているなと自分でも思うところが多々あり、読み返してつらくなる部分がかなり多い話でもありました。いくつかのエピソードができあがっていたものの、それらの点を線で結んでいく作業のときに、「社会人はツライよ」オーラを発していた私がそのときの精神状態を重ねて書いてしまったのが、次のいくつかのエピソードです。それらにまつわる現実の樋渡ゆうぞーが見えてしまいそうでアレですが……。
 まずセテがハイ・ファミリーのぼっちゃんを斬りつけてアジェンタス騎士団に出向させられるとき。傍目に見ていれば左遷なのですが、私は左遷ではないものの似たような経験をしています。会社の事業部が事業をたたみ、新事業を立ち上げる準備を行う際、私はひとりでその部署の根底をまかされるハメになりました。ええ、ひとりです。ですが、新規事業の準備段階ということで予算を使うことができず(つまり外注で仕事を進められない)、そのくせやることだけは一丁前にハードだったりして、さらには売り上げも立てることができない。根性腐ってました。「なんで自分だけ、こんな金もなにも生まない仕事をやらなきゃいかんのだろう」と毎日が憤りと不安でいっぱいでした。残念ながら本編では書ききれなかったのですが、セテが左遷させられて自分の力ではどうにもならないことに対して憤っていたのと、やっぱり同じ気持ちで過ごしていました。あのやるせない気持ちってのは、もう二度と経験したくないですねぇ(笑)。
 次に、セテの昇格が発表されたときのレトの気持ち、ですかね。うう、いま思い返しても自分がいやなヤツかも、と思うエピソードではあるのですが(^ ^;;。実は別部署に異動した同僚がその部署で昇格し、それなりの地位を与えられることが発表されたんですよね、ちょうどあれを書いているときに。おめでとうって本人にはちゃんと言えましたけど、でも胸中おだやかでないというのが本音でした。
 いいなぁ、あいつはそうやって認められているのに、自分はいまなんの金も生み出さない仕事をずっとやっている、私はいったいなんのためにこの会社にいるんだろう。そんなことを考えて、本気で退職を考え始めたのがこのとき。だからレトのあの複雑な気持ちはとてもよく理解できます。誰だって親友が自分を差し置いて昇格し、自分はそのままの地位にいるのを黙って受け入れられませんよね。

 社会人として、ひいては人間としての成長を根底においた「神々の黄昏」ですが、もうひとつ重要なキーワードがあります。それは「パートナー」で、この第一章でうまく組み立てられたのではないかと思っています。
 第一章でのパートナーとは、セテとサーシェス、セテとレト、サーシェスとアスターシャ、サーシェスとフライスを指します。
 冒頭の流れで「セテとサーシェスはやっぱりくっつくよね」と思わせておいて、セテを思い切り失恋させるというのは私の謀略のひとつ(笑)でもありましたが、そのかわり、彼らは不幸な事件を経た後、自分の足りない部分を補うパートナーという形で新しい約束を交わすことができました。男だからとか女だからとか、そういうのを超越した仲間という意識を自覚するわけですね。
 またセテとレトは、ああいったとても悲しい結末を迎えましたが、レトはセテを、もちろんセテはレトを最高のパートナーと思っていたし、最後の最後でレトは自分のパートナーを自分の悪意から守り抜いた形になるわけです。彼らの関係についてはまだまだ書ききれなかったところがたくさんあるので、いずれまた番外編や挿話などでお目見えできればと思っています。
 サーシェスとアスターシャの関係においては、最初の出会いは決して好意的ではなかったというところがこれまでのパートナーとは違っています。しかし、女友達のいなかった彼女たちふたりが奇遇な形でパートナーを意識し始め、そしてやっと親友という存在になっていくわけです。
 そしてサーシェスとフライスの場合は、フライスが言っていたとおり、接していた時間が長かったのに互いを拒絶しあっていたけれども、お互いを自分の半身であると認識し、愛を確かめ合う形でパートナーとなり得ることができました。
 人間はひとりでは生きていけません。誰かに支えられたり、自分が誰かを支えたり、さまざまな人の協力を得ながら社会で生きていこうとします。パートナーとは、その協力関係の中でももっとも存在の大きな身近な仲間です。恋人も夫婦も親友も親子も兄弟も主従関係も、私から言わせていただければすべてパートナー同志の結びつきに帰っていきます。第一章のほかにもたくさんのパートナーが登場しますが、こうしたパートナー同志の結びつきを、次章でも引き続き描いていければいいなと思っています。

 ところで、たいへん長い章だったにもかかわらず、文字数や話数の関係で削ってしまったエピソードがいくつかあります。
 ひとつは、前述しましたがセテがアジェンタス騎士団に出向という形になってやさぐれ、反抗的な態度を取ってさらにスナイプス統括隊長を怒らせるというエピソードです。セテがアジェンタスに舞い戻る形になり、明日から自分はどうなるんだろうとか、なんでこんなところでこんな仕事をしなきゃいけないんだと思う、そういう気持ちを全然書ききれなかったのが残念です。
 もうひとつはずいぶん後半になりますが、セテがピアージュに助けられてコルネリオの元を見事脱出したあとに挿入する予定だったエピソードです。あのあたりはすごく言葉足らずで分かりづらくなっていると思いますのでここで補足を。
 セテがピアージュとおいかけっこになるわけですが、あの作戦は殺人鬼であるピアージュをおびき出すために、とりあえず指定された場所をぐるぐる走り回れとセテたち特使に出された、ガラハドの指示でした。ガラハドとしてはある場所までおびき寄せておき、霊子力炉を使って一気に敵を殲滅するチャンスと考えていたんですね。ところがあろうことかセテがコルネリオにとっつかまってしまい、最悪の事態を迎えることとなります。そのとき作戦司令室にいた中央顧問官ハートマンが「独断で部隊を招集した」と言ってガラハドが「勝手な真似をするな」と激しく怒りますが、その直後に挟まる予定だった話を削りました。
 ハートマンはそれでも独自に指令を出して、セテを見つけ次第抹殺せよとの命令が中央特使に下されます。つまり、コルネリオにつかまれば作戦の機密はすでにコルネリオに知られているはずだし、洗脳されて殺人鬼になってしまえば手の打ちようがないという判断なわけですね。ある意味正しいとは思います(笑)。コルネリオの元を抜け出してピアージュとふたりきりになったセテは、禁断症状を抱えたピアージュを連れて総督府に戻ろうと地上に顔を出すのですが、そこで仲間のはずの特使に殺されかかる、という話が入る予定だったんですわ。でもあんまり冗長になってしまうので思い切って削りました。だからあのへんはなんだか話が前後していたりするんですね(言い訳)。

 多くの悲劇を通じてやっと幕を閉じたアジェンタス編ですが、その後舞台がロクランに移ってから、ようやくこの物語のメインの戦いが幕を開けます。また、せっかく整ったパートナーシップもバラバラになり、これまでの謎はますます深まるばかりといったところでしょうか。それぞれのパートナーの行方やまだ明かされぬ多くの謎、次章では果たして明らかにされるのか、それは読んでのお楽しみです。
 それでは引き続き、急展開し続ける「第二章:黄昏の戦士」をお楽しみください。

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